漫画「ごちそうさまが言いたくて」をネタバレ解説
――それは、何気ない昼休みから始まった。
営業部の夏目は、几帳面で真面目、少し不器用な青年だ。
毎日同じ時間に会社の休憩室へ行き、静かに手作り弁当を広げる。
見た目も性格も地味めで、周囲とはあまり関わらないタイプ。
けれどその弁当だけは、彩りも味も完璧で、どこか温かみがある。
ある日、そんな夏目の向かいにどかっと腰を下ろす男がいた。
営業部のムードメーカー、栗丸。
社内でも人気の高い彼は、いつも明るく、どこか人懐っこい笑顔を浮かべている。
だがその手に持っていたのは、スーパーの安売り弁当。
「うわ、夏目くんの弁当、うまそうだなぁ」
軽い調子でそう言ってのぞき込む栗丸。
夏目は最初こそ戸惑いを隠せなかったが、その視線に悪気がないことを知ると、
つい「少しなら…」とおかずを分けてしまう。
――それが、二人の“ごはんの時間”の始まりだった。
次の日、また同じ席に栗丸が座る。
その次の日も。
「今日も夏目くんの弁当、楽しみだな」
「……別に、あなたのために作ってるわけじゃありません」
そんな小さなやり取りを繰り返すうちに、
夏目の心には少しずつ変化が芽生えていく。
朝、弁当を作る時間が少し楽しくなり、
「今日の栗丸は喜ぶだろうか」と思いながら味つけを整える自分に気づくのだ。
一方の栗丸も、夏目の手料理を食べるたびに心が満たされていく。
“誰かが自分のために作ってくれたもの”――
それは、彼にとっていつしか心の拠り所となっていた。
ある雨の日。
夏目が弁当を忘れてしまい、栗丸が「じゃあ俺が作るよ」と申し出る。
その弁当は少し焦げていて、見た目も不格好だった。
でも、夏目は一口食べた瞬間、目を見開く。
「……美味しい」
その言葉に、栗丸は少し照れくさそうに笑った。
「俺、夏目くんに“ごちそうさま”って言われたくて頑張ったんだ」
――“ごちそうさま”。
それはこの作品のテーマであり、二人を繋ぐ魔法の言葉。
やがて、互いの“おいしい”が“好き”へと変わっていく。
言葉にしなくても伝わる優しさ。
一緒に食べるだけで、なぜか心が温まる。
最終章では、二人は同じキッチンに立ち、
笑いながらお弁当を作る姿が描かれる。
「今度は俺が作る番だね」と栗丸が言えば、
「焦がさないでくださいね」と夏目が微笑む。
食卓の上には、二人で作ったお弁当が並ぶ。
それを見つめながら、夏目がそっと言う。
「……ごちそうさま」
その言葉に込められたのは、
“今日もあなたと食べられて嬉しい”という、静かな愛の告白。
――恋の始まりは、ひと口の「おいしい」から。
そして恋の証は、「ごちそうさま」で結ばれる。
**『ごちそうさまが言いたくて』**は、
そんな二人のゆるやかな恋の物語である。
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