漫画「間宮くんのナカは純情」をネタバレ解説
――大学の昼下がり。
教室の窓際で、遠藤はいつものようにノートを取りながら、前の席に座るひとりの男子を何気なく目で追っていた。
整った横顔。無駄のない所作。
周囲がざわついても、どこか静けさを纏っているその姿。
彼の名前は間宮。
女子たちの間では“間宮くん”と呼ばれ、モテランキング上位の常連。
けれど彼は、誰に対しても一定の距離を保ち、感情を表に出さない。
完璧すぎて、どこか近寄りがたい存在。
遠藤にとって間宮は、まさに“憧れ”のような人だった。
けれど、それはあくまで遠くから眺めるだけの存在で、自分とは関わることのない世界の人——
そう思っていた。
そんなある日。
「ちょっと面白そうなバイト見つけたんだ」
友人に誘われ、軽い気持ちで応募したのは、テーマパークの着ぐるみスタッフのバイトだった。
真夏の暑さの中、巨大なマスコットの着ぐるみを着て走り回る、なかなかハードな仕事。
汗だくになりながらも懸命に動く遠藤。
ふと横を見ると、同じ着ぐるみを着た別のスタッフがふらついて倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、着ぐるみの頭を外すと――
中から現れたのは、あの間宮だった。
「……えっ、間宮くん!?」
汗で額に髪が張り付き、頬は赤く、息が乱れている。
普段の冷たいほど整った表情とは違う、どこか無防備な顔。
そのギャップに、遠藤の心臓が強く跳ねた。
それからふたりは、同じバイト先で顔を合わせるようになった。
最初は少し気まずく、会話もぎこちない。
けれど、遠藤の人懐っこい性格と、間宮の不器用ながら誠実な態度が、少しずつ心の距離を縮めていく。
「お前って、意外とちゃんと真面目なんだな」
「……お前に言われたくない」
軽口を交わすようになったある日、遠藤は気づく。
間宮はクールでも完璧でもない。
ただ、不器用なだけだと。
人付き合いが苦手で、うまく笑えなくて、
それでも相手を大切に思う気持ちは人一倍強い。
そんな“間宮の中身”を知るたびに、遠藤の中で芽生える感情は少しずつ形を変えていった。
そして、ある放課後。
いつものようにバイト帰りの駅で別れようとした瞬間、
遠藤はふと、間宮の手を取ってしまう。
「なぁ……間宮くんって、どうしてそんなに素っ気ないの?」
「……俺は、どうすればいいのか分からないだけだ」
間宮の声は震えていた。
遠藤が見たことのない、少し怯えたような顔。
その瞬間、遠藤ははっきりと理解した。
――自分はこの人のことが、好きなんだ。
そこから、ふたりの関係は“友達”から“特別な誰か”へと変わっていく。
どちらも恋愛に慣れていないから、すれ違いも多い。
少しの誤解で距離が空いたり、
伝えたい言葉を飲み込んでしまったり。
でも、会えない時間の中で気づく。
「俺、間宮くんがいないと、なんかつまんないんだ」
「お前が笑ってないと……落ち着かない」
恋というものの不器用な始まりが、少しずつふたりの世界を温めていく。
季節が巡り、またテーマパークのイルミネーションが灯る夜。
最初に出会ったあの場所で、ふたりは再び並んで立っていた。
静かな夜風の中、間宮が小さく呟く。
「……お前と出会えてよかった。」
遠藤は笑って答える。
「俺も。間宮くんの“ナカ”が純情で、本当によかったよ。」
そして、ふたりはゆっくりと、初めてのキスを交わした。
――恋を知らなかったふたりが、ようやく見つけた“本当の愛”。
それは派手ではなく、静かで、確かなぬくもりを持った恋の形だった。
🌸読後の印象
この物語は、恋を知らない青年たちが“好き”という感情に戸惑いながら成長していく物語。
遠藤の明るさと、間宮の不器用な優しさが重なって生まれる恋は、
まるで冬の朝の光のように、やわらかくて温かい。
「クールな見た目の“中身”は、まっすぐで純情」
——そんなタイトルの意味が、最後のページでじんわり胸に沁みる。
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