漫画「恋のリテイクは午前0時に」をネタバレ解説
夜のアニメスタジオ。
蛍光灯の光が、机の上に散らばる原画用紙を静かに照らしている。
カリカリと響く鉛筆の音だけが、夜更けの空間に残っていた。
――叶野は、眠気をこらえながらペンを握っていた。
子どもの頃、彼の心を揺さぶった一本のアニメ。
その感動をもう一度、この手で描きたい。
その一心で憧れの制作会社に入った。
だが、現実は想像以上に厳しい。
仕事は終わらない。修正の山。
そして、何よりも彼の前に立ちはだかるのは――
冷静沈着な上司、清良邦孝。
彼は誰よりも才能に恵まれ、妥協を許さない完璧主義者。
叶野がどんなに努力しても、「リテイク」のひと言が返ってくる。
「線が甘い。やり直しだ」
その声は冷たいのに、
不思議と耳に残って離れなかった。
悔しさと尊敬が入り混じる感情。
それが、叶野の胸の奥を静かに占めていく。
そんなある晩、叶野は終電を逃した。
徹夜明けのオフィスで、ふと目にしたのは、
作業机にもたれ、疲れたように目を閉じる清良の横顔。
いつもは険しい眉も、今だけは少し緩んでいる。
手の甲には、長年の努力の跡のような鉛筆ダコ。
「……清良さんって、こんな顔するんだ」
その瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
やがて、ふたりは少しずつ言葉を交わすようになる。
仕事の話、アニメの話、そして――お互いの夢の話。
清良は叶野に言う。
「お前はまだ線が荒い。でも、誰よりも真っすぐだ」
それは、叱責でも嘲笑でもない。
初めて向けられた“肯定”の言葉だった。
叶野はその夜、こみあげる涙をこらえながら誓った。
――この人の隣で、同じ景色を見たい。
だが、清良は簡単に心を開くような人間ではなかった。
彼の背中には、過去の傷と孤独が隠されていた。
「仕事に恋なんて持ち込むな」
そう言いながらも、
視線はいつも叶野のほうへ向いている。
ふたりの間には、
“上司と部下”という線が確かに存在していた。
でも、その線は、描けば描くほど曖昧になっていく。
静かな夜のオフィス。
午前0時、残業の合間に差し出された缶コーヒー。
その一口の温かさが、言葉より雄弁に気持ちを伝えていた。
清良は知らない。
その小さな優しさが、叶野にとってどれほどの救いだったかを。
やがて、叶野の描く線は変わっていく。
柔らかく、温かく、まるで清良の心を映したように。
清良もまた、その変化に気づいていた。
「お前の絵、…俺が好きだったあの頃の線に似てきたな」
それは、清良自身の“凍っていた情熱”が溶け始めている証。
二人の関係は、師弟でもなく、同僚でもなく、
ただの「ふたりの男」として少しずつ近づいていく。
そして迎える、新作アニメの納品前夜。
会社に残っているのは、清良と叶野だけ。
静かな作業音の中、時計の針が0時を指す。
清良は手を止め、ゆっくりと叶野を見た。
「叶野。…もうリテイクはなしだ」
その声は、どこまでも優しかった。
“恋のリテイク”を繰り返してきた二人が、
ようやくたどり着いた答え。
蛍光灯の下、ふたりの影が重なって――
長い夜が、静かに明けていく。
🌹まとめ
『恋のリテイクは午前0時に』は、
“夢を追うこと”と“人を想うこと”の両方を諦めなかった二人の物語。
厳しさの裏にある優しさ、
未熟さの中にある真っすぐな情熱、
そして、深夜の静けさの中で紡がれる“本音”が、
読む人の心に深く響く――
そんな、静かで美しい大人の職場BLドラマです。
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