漫画「私を叱る日鷹君と毎晩シています」をネタバレ解説
――その日、菜摘はとうとう“限界”だった。
仕事はそこそこ順調、日々の生活もそれなりに安定している。けれど、どこか満たされない。27歳という年齢になり、これまでいくつかの恋愛をしてきたけれど、どうしても忘れられない思いがひとつだけあった。
「気持ちいいセックスって、どんな感じなんだろう?」
付き合った相手には気を遣ってばかり。彼らを傷つけまいと遠慮し、欲しいものを欲しいと言えず、自分が本当に満足した経験なんて、ただの一度もなかった。ただ愛されるだけじゃ足りなかった。体だけじゃなく、心の奥まで満たされるような、そんな時間を知らないまま大人になってしまった気がしていた。
そして菜摘は、ついにある行動に出る。
「女性専用の風俗」に予約を入れたのだ。誰にも言えない、自分の“欲”を満たすため。誰かに必要とされたい、甘やかされたい――そんな思いを胸に。
だが運命は、皮肉なタイミングで干渉してくる。
予約画面を閉じる前、ふと背後からのぞき込んできたのは、同じ職場の同期・日鷹陽翔(ひたか・はると)だった。冷たく、無愛想で、仕事においても人一倍厳しい男。菜摘に対しても、何かと棘のある物言いをする、ちょっと苦手な存在。
そんな彼が、スマホの画面をチラリと見た瞬間、少し口角を上げたように見えた。そして、こう言った。
「……風俗行くくらいなら、俺としてみるか?」
冗談かと思った。でも、その目は本気だった。
戸惑い、動揺しながらも、なぜか心のどこかが“反応”してしまった。
自分のことを叱ってくるくせに、こんなにも強引で、自信満々な誘い――
拒めなかった。拒みたくなかった。
そして菜摘は、彼の家のベッドの上で、「知らなかった世界」に触れることになる。
日鷹は、いつものような冷たい仮面を脱ぎ捨て、驚くほど優しく、そして丁寧だった。彼の指先に、視線に、声に、抱かれながら、菜摘は初めて「自分が満たされる」という感覚を知る。
けれど、それは「恋」ではない。
少なくとも、日鷹はそう言わない。
菜摘もまた、“これはあくまで割り切った関係”だと、何度も自分に言い聞かせる。
──それなのに。
会えば会うほど、彼の意外な優しさに惹かれてしまう。
触れられるたびに、体よりも心が熱を帯びていく。
気づけば、彼のちょっとした言葉に笑ったり、傷ついたりしている自分がいた。
一方で日鷹もまた、菜摘の無防備さや真面目すぎる性格に、何か特別なものを感じ始めていた。けれど、不器用な彼にはそれを言葉にする術がない。ただ、抱くことでしか、想いを伝えられない。
ふたりの関係は、“セフレ”の枠を越えた、けれど“恋人”とは呼べない、曖昧な関係。
不安と欲望、甘さと苦さが交差する、危ういバランスの上に成り立っていた。
でも、ある日を境に、そのバランスは崩れていく。
菜摘は、「このままじゃいけない」と、自分の気持ちに真正面から向き合うことを決める。
「私は……日鷹君のことが、好き。」
それは、自分自身の心に正直になるための、一歩だった。
そしてそれを受け止めるのか、拒むのか。
日鷹の返事が、ふたりの未来を変えていく。
“叱ってくる男”と“素直になれなかった女”が出会い、
身体から始まった関係が、やがて深く、静かに、愛に変わっていく――
これは、欲望の先に見つけた、本物の恋の物語。
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