漫画「王子な騎士団長は薬草好きの令嬢を溺愛してめとりたい」をネタバレ解説
春の陽光が降りそそぐ王立学園の門をくぐった瞬間、子爵令嬢エルナは胸の奥に奇妙な違和感を覚えた。見慣れたはずの石畳、輝く制服の生徒たち――それらが一瞬にして“どこかで見た世界”と重なったのだ。
やがて彼女は悟る。ここは前世で名前だけ知っていた乙女ゲーム『虹色パラダイス』の舞台なのだと。
だがエルナの事情は少し特異だった。
多くの転生者がゲーム知識を武器に未来を切り開くのに対し、彼女はそのゲームを一度もプレイしたことがない。知っているのは、パッケージに描かれていた麗しき王子たちの姿と、友人が楽しそうに語っていた断片的な思い出だけ。
「これじゃあ、物語の展開なんて全然わからないじゃない……」
不安を胸に抱えながらも、エルナは心に決める。
――目立たず、静かに、平凡に。そんな生活を送ろう、と。
しかし彼女の決意はすぐに打ち砕かれる。
学園で出会ったのは、ゲームの“ヒロイン”にあたるであろう美少女リリアーナ。純真で人懐っこい彼女はすぐにエルナに心を開き、二人は親友のような関係となる。そしてさらに厄介なことに、王国の誇る美貌の青年、レオンハルト王子からも強い興味を持たれてしまうのだった。
「君に、名前を呼んでほしい」
真剣な眼差しで迫られるたび、エルナは心臓を握りしめられる思いがした。目立ちたくないはずなのに、気づけば誰よりも注目を浴びる立場に立たされてしまう。
そんな彼女のただ一つの趣味は刺繍だった。
静かな時間の中で、糸を針に通し、細やかな模様を布に浮かび上がらせる。それは彼女にとって心を落ち着ける習慣であり、控えめな喜びにすぎなかった。だがある日、彼女の刺したハンカチが人を癒す力を持つと知られたことで、状況は大きく変わり始める。
“聖なる刺繍”と噂されるそれは、やがて権力者の目に留まり、エルナの望まぬ形で大きな渦へと巻き込まれていく。
やがて彼女は誘拐され、辿り着いた先で出会ったのは王の側妃ビアンカ・ヘルツだった。冷たく美しいその女性は、自らの息子を王位に就けるためにエルナの力を利用しようと画策していた。
「あなたの刺繍は特別よ。その力を、我が子の未来のために捧げなさい」
野心に満ちた声に、エルナは震えながらも針を握りしめる。
平穏を望むだけだったはずなのに、気づけば愛と陰謀の中心へと引き寄せられてしまった彼女。
リリアーナとの友情、レオンハルト王子からの熱い想い、そして刺繍に秘められた謎の力――そのすべてが交錯し、エルナの運命を大きく変えていく。
やがて彼女が刺す一針一針は、ただの模様ではなく、人と人を結ぶ聖なる糸となり、国全体の未来をも左右する存在へと育っていくのだった。
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