漫画「アンバランス 私だけがブスだった」をネタバレ解説
「まりもちゃんってさ、もっと可愛くなれるよ」
そのひと言が、彼女の運命を変えた。
佐竹まりも、29歳。
都内の会社で事務職として働く彼女は、自他ともに認める“地味系女子”。
ぽっちゃりとした体型に、流行から取り残されたような服装。見た目に自信が持てず、恋愛にも踏み出せないまま、なんとなく過ぎていく毎日を送っていた。
だが、そんな彼女に転機が訪れる。
同じ部署の華やかな女性たち――森山神奈、宗弥生、如月公美。職場でも一目置かれる存在である彼女たちから「一緒にランチ行かない?」と声をかけられたのだ。
最初は戸惑いながらも、まりもは彼女たちの輪に加わるようになった。
メイクの仕方、似合う洋服、恋愛の話。
まりもは、美しい3人のアドバイスを素直に受け入れ、少しずつ垢抜けていった。
鏡に映る自分が、ほんの少し好きになれた気がした。
“ブス”だと感じていた世界が、少しだけ明るく見えた。
「わたし、変われるかもしれない」
そう思わせてくれたのは、間違いなく彼女たちだった。
――あの日までは。
ある日、4人で女子旅に出かけた。
行き先は、自然豊かな山間のリゾートコテージ。美味しい食事と温泉、そして気兼ねないおしゃべり。笑い声が夜風に溶けていく。
その夜、コテージの近くで出会った大学生グループが声をかけてきた。少し酔っていたが、悪い印象はなかった。最初は軽い談笑。けれど、ふとした瞬間に空気が変わった。
「ねぇ、こっち来てよ」
そう言われた先に待っていたのは、まりもにとって人生最悪の瞬間だった。
無理やり押し倒され、服を剥ぎ取られ、腕を縛られ――
涙と嗚咽の中で、彼女は必死に助けを呼んだ。
「お願い、助けて……!」
でも、彼女が見たのは、美人3人の“沈黙”だった。
戸惑いながら、目をそらし、動かず、声を上げず。
翌朝、何事もなかったかのように振る舞う彼女たち。
まりもが問い詰めると、返ってきたのは冷たい一言だった。
「ごめん、私たちも怖かったのよ」
「警察に行ったら動画が流出するかもしれないし……」
「……まりもちゃんだけ、ちょっと“狙われそう”だったしね」
その瞬間、まりもの心にあった“信頼”という名の柱が音を立てて崩れた。
今までの優しさも、気遣いも、全部――
「ブスに親切にしてあげる」という、優越感だったのか?
それでも彼女は、自分が何かを間違えたのではと、何度も自問した。
泣きながら問いかけた。「どうして私だけが?」と。
だけど、誰も答えてはくれなかった。
それからまりもは、会社に来なくなった。
連絡も取れないまま、時間だけが過ぎていく。
そして数ヶ月後――
ある日、偶然すれ違った彼女は、まるで別人のように洗練された姿をしていた。
その笑顔は、柔らかく、それでいて、どこか人間味を失っているように見えた。
彼女がどこで何をしているのかは、誰も知らない。
でも、あの事件以降、美人3人組の周囲では奇妙な“崩壊”が続いていた。
失職、裏切り、暴露、炎上――
誰かが糸を引いているような連鎖。
けれどそれを証明できる者はいない。
ただ、まりもの中で何かが壊れ、そして生まれ変わったことだけは、誰の目にも明らかだった。
――あのとき、彼女を助けていれば。
そう、悔やんでも遅い。
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