漫画「修羅場のワンサイドラブ」をネタバレ解説
――修羅場。それは漫画家にとって、原稿の締切が迫り、精神的にも肉体的にもギリギリになる時期を指す言葉だ。
そして、その「修羅場」が来るたびに編集者・穂波瑛二は覚悟を決める。
自分が担当する人気漫画家・三島楓は、普段こそ冷静沈着な仕事人に見えるが、修羅場前になると豹変する。わがままは倍増、甘えは加速。時に膝に抱きつき、時に「今日は帰らないで」と懇願し、しまいには「頭撫でて」だの「腰にしがみついていい?」だのと遠慮がない。
幼なじみである穂波は、それを「いつものことだ」と受け流し、漫画家の繊細さと割り切っていた。
だが、どこかで気づいていた。
これは“ただの癖”や“甘え”ではない。三島の瞳の奥にあるのは、もっと濃く、もっと重たい、何か――。
二人の出会いは小学生の頃にさかのぼる。
漫画が好きで、いつも何かを描いていた三島。
それを隣で褒めてくれたのが穂波だった。
以来、三島は穂波をただの“友達”としてではなく、自分の原点のように見ていた。
そして、大人になり、漫画家と編集者という関係になっても、三島の中の「穂波」は変わらなかった。
――むしろ強く、強く、彼だけを見つめるようになっていった。
穂波にはそれが見えていなかった。
いや、見ないようにしていたのかもしれない。
「元カノのフリをしてほしい」
「一緒にイベントに行ってほしい」
そんな突拍子もない頼みごとも、“仕事の一環”として片づけていた。
だが、ある日ふと気づく。
三島の部屋には、自分と写った写真ばかりが飾られている。
スケジュール帳の予定は、自分との打ち合わせで埋め尽くされている。
彼の漫画には、どこかで見たような“自分”がキャラクターとして描かれている。
――まるで、世界の中心に自分しかいないみたいに。
そのとき初めて、穂波は理解する。
三島は19年間、ずっと自分を想い続けていた。
“甘え”ではない。“執着”だった。
彼の人生は、自分で塗りつぶされていたのだ。
「俺、本気でお前のことが好きだった。今までも、これからも、ずっと」
穂波の心が揺れる。
ずっと傍にいて、無意識のうちに支え合っていた関係。
恋愛という名前を与えたことはなかったけれど、それはすでに、ただの友情ではなかった。
三島の気持ちを受け止めたとき、穂波の中で何かが溶け出す。
それは戸惑いでも、困惑でもない。
ただひとつ、確かな答えだった。
「俺、もうあんたの甘やかしに慣れすぎたかもしれない」
それは、恋人としての第一歩だった。
そこから始まるのは、漫画家と編集者、幼なじみ、片想いと両想いの境界線を行き来する、騒がしくて甘すぎる日常。
三島は今も修羅場になれば穂波に甘え、穂波はそれに呆れながらも応える。
ふたりの関係は少しずつ形を変えながら、確実に“愛”へと育っていく。
そして思う。
こんなにも一途に、自分だけを見つめてくれる存在を、他に知っているだろうか?
――彼は、人生ごと、まるごと自分に恋をしていたのだ。
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