漫画「俺たちは恋人に向いていない」をネタバレ解説
古びたアパートの壁一枚越しに、毎晩のように聞こえてくる軽やかな男の声。
「恋を叶えるにはタイミングが大事なんだよ! とりあえず、キスしとけ!」
――うるさい。
無口で無愛想な整備士・熊沢は、その声にイラ立ちを隠せず、ついにある夜、隣室に苦情を言いに行く。
玄関のドアを開けた瞬間、そこにいたのは人懐っこい笑顔の青年・晃一だった。
明るく、気さくで、やたらと距離が近い晃一は、実は恋愛指南系の人気YouTuber。
彼の動画は“リアルな恋”を語ることで人気を集めていたが、当の本人はというと、実際の恋愛経験は皆無。
動画ではキスや愛情表現を語っているくせに、本人はまるで“恋”に触れたことがなかった。
そんな晃一が、ふとしたきっかけで熊沢に「キスの練習台」を申し出る。
「ねえ、熊沢さん……ちょっと、試してみない?」
それは冗談のような、でもどこか真剣な目をしたお願いだった。
熊沢は戸惑いながらも、流されるようにその唇を受け入れる。
それはただのキスだったはずだった。
だが――その温もりは、彼の中に静かに火をつけた。
それからというもの、晃一は「またキスしていい?」と何度も甘えるように言ってきた。
熊沢の中で、彼の存在は徐々に大きくなっていく。
だが、熊沢は「自分には恋なんて似合わない」と、感情を必死に抑えようとする。
一方、晃一もまた、熊沢に触れられるたびに、本当に恋を知っていく。
熊沢の不器用な優しさ、時折見せる真っ直ぐな眼差し――その全てが、晃一の胸に静かに刺さっていく。
だが、2人の関係は順風満帆とはいかない。
晃一のYouTuberとしての活動が思わぬ騒動を呼び、熱心なファンが家に押しかけたり、熊沢の存在を詮索されたりと、日常は少しずつ壊れていく。
さらに熊沢には、過去の家族との確執という、晃一には見せていない重たい荷物もあった。
「恋人になろう」とは誰も言っていない。
それでも、互いの存在がなくてはならないほど深く結びついていた。
関係を壊したくなくて、気持ちを伝えられない。
でも伝えなければ、すれ違ったまま終わってしまう――。
ある日、晃一がぽつりと呟く。
「俺たち、恋人に向いてないのかな」
熊沢は少しだけ目を伏せて、そして静かに言う。
「向いてねぇよ……だけど、お前じゃなきゃダメだ」
その一言が、曖昧だった関係をひとつ先へ進めた。
恋人というラベルでは語れない、でも誰よりも強く結びついた二人が選んだのは、
言葉ではなく、日々の中で支え合っていくという“実感ある愛”だった。
笑って、ぶつかって、たまにキスして。
不器用だけど真っ直ぐな二人が描く、
“恋人には向いていない”けれど、間違いなく愛し合っているラブストーリー。
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