飯バフ食堂、盛況なり~「おっさんは邪魔だ!」と追放された付与術師、特技を生かして田舎で食堂を開くも英雄御用達となる~
「おっさんはもう、いらねぇんだよ」
そう言い放たれたのは、長年仲間として共に戦ってきたはずの冒険者パーティの若者たちだった。
リシト──四十歳。サポート専門の付与術師。
目立たず、派手な魔法も剣も使えず、ただ仲間の武器を強化し、行動を支えることに徹してきた。
だが時代は“即戦力”を求めていた。地味で年老いた支援役など、必要とされるはずもなく、彼はあっけなくパーティから追放されてしまう。
打ちひしがれ、行く宛もないままリシトが頼ったのは、かつて契約した従魔ツーク。
姿こそリスにしか見えない小動物だが、中身は情に厚い熱血漢で、リシトを「アニキ」と慕っている。
「アニキの得意を活かして、誰かに喜んでもらえる場所を作りましょうや!」
その一言が、彼の新たな人生を動かす。
ふたりがたどり着いたのは、王都から遠く離れた辺境の村・ルーエ。
モンスターこそ出るが、人情と自然が豊かな場所で、リシトは得意だった料理と補助魔法を組み合わせた“バフつき料理”を提供する食堂を始めることに。
開店初日。食材は乏しく、設備も簡素。しかし、彼の料理を一口食べた冒険者たちは目を見張った。
「これ、なんか体が軽い…!?」
そう、彼の作る料理には、戦闘を支える魔法効果──“飯バフ”が付与されていたのだ。
瞬く間にその噂は広まり、村の食堂には腹をすかせた冒険者たちが行列をなすようになる。
中には“魔法剣”と恐れられるAランク冒険者・メナールの姿も。
一見、冷たく近寄りがたい彼女だったが、リシトの料理と人柄に触れるうち、次第に心を開き「恩師」と呼ぶまでになる。
「剣でも魔法でもない、あの人の“飯”が、私の背中を支えてくれるんです」
時に魔物を狩り、時に冒険者の悩みを聞き、そして毎日コツコツと料理を作り続ける。
リシトの食堂は、ただ空腹を満たす場所ではなく、戦う者たちの心を癒す“居場所”となっていく。
かつて価値を見失いかけていた男が、再び誰かの力になれることを知ったとき、物語は静かに、しかし確かに動き出す。
そして──彼が追放された理由、「おっさんは邪魔だ」と切り捨てた者たちにも、いつかこの香ばしい料理の匂いは届くのだろうか。
これは、“おっさん”が飯と魔法で人生を立て直す、心もお腹も満たされる再起のファンタジー。
──今日も、ルーエの空にいい匂いが立ちのぼる。
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