甘やかして ちゅうして とろっとろにして。 ネタバレ!あらすじや結末予想も!

漫画「甘やかして ちゅうして とろっとろにして。」をネタバレ解説

北郷じゅんは、昔から「頼まれると断れない」性格だった。

それが長所だと信じてきたし、実際に周囲からは“気が利く人”として重宝されている。

けれど、心のどこかでは分かっていた。

「便利な人」として扱われているだけかもしれない、と。

毎日のように押しつけられる雑務、同僚の代わりに処理する書類、笑って受け入れたはずのお願いごと——

気づけば、じゅんはいつも他人のために自分の時間を削っていた。

その日も同じだった。

定時を過ぎても誰もいないフロアで、ひとりパソコンに向かい、黙々とキーボードを叩いていたじゅん。

疲労と孤独が背中にのしかかる中、不意に声がかかる。

「北郷さん、まだ残ってたんですか?」

顔を上げると、そこには後輩の南瀬遼が立っていた。

彼は社内でも一目置かれる“デキる男”。端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気で、女性社員の憧れの的だ。

そんな彼が、なぜかじゅんにだけは少し特別な距離感で接してくる。

「手伝いますよ。こんなの、ひとりでやってたら身体壊します」

自然な口調で隣に座り、手際よく仕事を片付けていく南瀬。

じゅんは戸惑いながらも、その静かな優しさにほんの少しだけ心を許していた。

ようやく仕事を終え、気分転換にとトイレへ向かった帰り道。

じゅんはふと、背後から聞こえてきた同僚たちの会話に足を止める。

「北郷ってほんと都合いいよな。お願いすりゃ全部やってくれるし」

——何気ない、でも残酷な一言だった。

胸の奥を、ぐっと握り潰されるような感覚。

喉の奥がつかえて、息が苦しくなる。

笑って受け流そうとしても、うまくいかない。

足早にその場を離れ、人気のない廊下でしゃがみ込む。

知られたくなかった本音が、涙となってあふれ出す。

——誰かに必要とされることでしか、自分の存在価値を感じられないのかもしれない。

そんな自分が、惨めだった。

そのとき、そっと肩に手が触れた。

「……北郷さん?」

驚いて顔を上げると、そこには南瀬がいた。

その目は、何も言わずに、ただじゅんの心の痛みを見透かすようにまっすぐだった。

「俺、ずっと思ってたんです。北郷さん、もっと自分を大事にしてほしいって。

……いや、それだけじゃない。俺、北郷さんのことが、好きなんです」

静かな告白は、混乱の中にいたじゅんの心に、確かに届いた。

こんなふうに、まっすぐに誰かから好意を向けられたのは、いったいどれくらいぶりだろう。

じゅんの目から、再び涙がこぼれる。今度は、少しだけあたたかい涙だった。

——誰かのために、無理をするんじゃなくて。

自分のために、誰かを信じてもいいのかもしれない。

その夜、静かに始まったふたりの物語は、

やがて少しずつ、日常を優しく塗り替えていく。

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