漫画「手札が多めのビクトリア」をネタバレ解説
かつて「クロエ」と呼ばれた女は、ハグル王国の影で暗躍する最強の工作員だった。
どんな任務も冷徹にこなし、変装も暗殺も暗号解読も自在。仲間たちから恐れられ、国からは「切り札」として扱われていた。
だが、その栄光は裏切りとともに崩れ去る。
信じていた同胞に背を向けられた彼女は、組織を捨て、長年の血の匂いにまみれた人生から逃げ出した。
「もう戦いの日々はいらない。ただ静かに、人として生きたい」
そう願ったクロエは、隣国アシュベリー王国へと渡り、名を「ビクトリア」と改める。
過去を封じ、誰も知らぬ町の片隅で、ただの市民として小さな人生を始めるつもりだった。
けれども運命は、彼女に再び手札を切らせる。
ある日、道端に捨てられていた小さな少女――ノンナを拾ったのだ。
骨ばった腕を震わせる子どもを抱き上げた瞬間、ビクトリアの心は揺れた。
冷徹な工作員として生きてきた彼女が、初めて「守りたい」と願った存在。
以後、二人は母と娘のように寄り添い、慎ましくも温かな日々を過ごし始める。
だが、安寧は長くは続かない。
王国の宮廷では、身元不明のビクトリアを怪しむ声が高まり、影では暗殺者の影が忍び寄る。
さらに、かつての仲間であるハグル王国の暗殺部隊が「裏切り者」を捕らえるため動き出した。
静かに暮らしたいと願う彼女の家に、血の匂いが再び漂い始める。
それでもビクトリアは逃げなかった。
戦うのは己のためではなく、傍らで眠る少女を守るため。
かつては冷たい刃だったその手が、今は「母」として愛する者を抱きしめるために存在している。
やがて物語はさらに大きな渦へと広がる。
王国に伝わる古い書物『失われた王冠』に秘められた暗号。
その謎は、王国の未来を左右する大いなる陰謀へと繋がっていた。
否応なく巻き込まれてゆくビクトリアとノンナ。二人は「シビルの森」と呼ばれる場所で、真実を求めて足を踏み入れる。
過去の罪と、未来の希望。
二つの運命を抱えたビクトリアの旅は、やがて「普通の人生」というささやかな願いが、どれほど尊く、どれほど勇敢な選択であるかを示していく。
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