漫画「次期公爵夫人の役割だけを求めてきた、氷の薔薇と謳われる旦那様が家庭内ストーカーと化した件」をネタバレ解説
婚約してからの日々、侯爵令嬢セシリアは「次期公爵夫人」としての役割を果たすことだけを胸に、静かに暮らしてきた。夫となるアレクシスは“氷の薔薇”と呼ばれるほど冷徹で、感情を表に出すことはない。だからこそ、セシリアは「愛情など求めてはいけない」と自分に言い聞かせ、従順で完璧な妻を演じ続けていた。
だがある日を境に、その仮面は少しずつ揺らぎ始める。
無表情で無関心に見えたはずの夫が、彼女の行動一つひとつに過剰なまでに目を光らせていることに気づいたのだ。侍女と会話していると、廊下の影から静かに視線を感じる。庭に出て花に水をやれば、窓辺から氷のように澄んだ目が彼女を追っている。夜遅くまで読書をしていれば、気づけば傍に立ち、ページを覗き込んでいる。
セシリアは戸惑い、やがて恐怖すら覚える。
――これはただの監視なのか、それとも…。
彼女が勇気を出して問いただすと、アレクシスは珍しく声を震わせながら告げる。
「君を見ていないと、安心できないんだ」
無機質だと思っていた彼の心には、誰にも言えぬ強すぎる愛情が潜んでいた。表現の仕方を知らないがゆえに、彼は妻の一挙手一投足を追い、閉じ込め、守ろうと必死になっていたのだ。
セシリアは混乱する。自分が欲してはいけないと諦めていた“夫からの愛情”を、こんな歪なかたちで向けられるとは思わなかったからだ。だが、彼の不器用な愛を知れば知るほど、冷たさの裏に隠された孤独と真剣さが伝わってくる。
次第に二人は、互いの心をさらけ出す勇気を持ち始める。完璧な役割を演じるだけの妻と、氷の仮面をかぶった夫――。その関係は、監視と従順の仮面を超えて、ようやく“真の夫婦”へと変わっていこうとしていた。
――これは、役割だけで成り立つ婚姻から始まり、愛を知らぬ二人がすれ違いながらも少しずつ絆を紡いでいく、危うくも甘美な物語である。
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