漫画「とって食ったりしねぇから 元ヤンくんとの恋事情」をネタバレ解説
星野美早(ほしの・みはや)、32歳。
都会の企業で着実にキャリアを積んできた美早は、自他ともに認める“まじめでしっかり者”のOLだった。後輩の育成に励み、上司からの信頼も厚く、地味だけれど堅実な日々を送っていた。
──だが、それはある一件をきっかけに崩れ始める。
後輩の小春が、既婚の上司と不倫関係にあると知ってしまったのだ。
見て見ぬふりはできない。美早は小春に直接告げた。「あなた自身が傷つくだけよ」と。
正しいと思ってとった行動だった。けれど、会社はそんな彼女を守ってはくれなかった。
数日後、美早は本社から地方支社への異動を言い渡される。
名目は「人員再配置」だったが、実際は左遷に近い扱いだった。
東京で築いてきた仕事も人間関係も、あっけなく手放すことになった美早は、ふるさとの町に戻ってくる。
久々の地元、懐かしい風景──けれど、心は重く沈んでいた。
やり場のない想いを抱え、昔の友人と酒を酌み交わした夜。
美早は終電を逃し、公園のベンチでうたた寝をしてしまう。
朝日が差し込む頃、隣に見知らぬ男性が座っていることに気づき、驚いて飛び起きた。
「……とって食ったりしねぇから」
その男は、そう言って少しだけ笑った。
短く、どこか投げやりで、けれど妙に落ち着いた声音だった。
数日後、美早は取引先の担当として再びその男と再会する。
彼の名前は──香田巴留(こうだ・はる)。
中学時代の同級生だった。
かつて彼女に告白してきた「元ヤン」の男子。
あの時の告白は“罰ゲーム”だった──そう思い込み、深く傷ついた記憶がある。
当時は怖くて、近づくこともできなかった。
だが、再会した香田は、まるで別人のようだった。
地元で農業を営み、日焼けした肌にがっしりとした体格。言葉は少なくても、ひとつひとつに誠実さがにじんでいた。
都会の喧騒とは無縁の静けさの中で、彼は日々、真面目に働き、生きていた。
「──あのとき、ほんとは本気だった。お前のこと、好きだったよ」
香田は、そう静かに告げた。
冗談や遊びではない、まっすぐな視線。
昔の誤解が、音を立てて崩れていく。
心の奥にしまい込んでいた記憶が、ふいに熱を持ってよみがえった。
美早は戸惑いながらも、香田のまっすぐな思いに心を揺らしていく。
恋なんて、もうしないと思っていた。
仕事に生きると決めていた。
それなのに──彼の前では、ただの「ひとりの女の子」に戻っていく自分がいた。
やがてふたりは、過去の傷を癒し合いながら、少しずつ距離を縮めていく。
ぶつかり合うことも、すれ違いもある。
でも香田は決して彼女の手を離さない。
「俺はお前のこと、ずっと大事にしたいんだよ」
都会では見つけられなかった、静かで確かな愛情が、そこにはあった。
そして美早もまた、自分の心に素直になっていく。
これは、
過去に踏みにじられた恋が、もう一度輝きはじめる物語。
大人になったふたりが、今だからこそ見つけられる“本物の恋”のかたち。
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