漫画「宮原先輩と藤原くん フジクマくんのせいで、ぬいぐるみを卒業?!しちゃいました」をネタバレ解説
──ベッドの上で、ひとり息を潜める夜。
宮原依鈴(みやはら いすず)は、肌触りの良いぬいぐるみにそっと指を這わせながら、抑えきれない感情と欲望を解き放っていた。
そのクマのぬいぐるみの名前は“フジクマくん”。
自分の性癖を隠しきれず、恋人に引かれてはフラれることを繰り返してきた依鈴にとって、フジクマくんは心の拠り所だった。
誰にも見せられない自分の姿。
女としての欲と、孤独と、癖(へき)と、傷ついた過去。
それら全部を包み込んでくれる、無言のパートナー。
30歳を目前にしながらも、「恋愛はもう面倒」「セックスに期待なんてしない」と割り切っていた。
どれだけ尽くしても、結局は“重い女”“変な女”扱いされるだけ。
ならば、ぬいぐるみを抱いていたほうが、よほど心が穏やかでいられる。
──そんなある日。
同じ職場の年下男子・藤原俊成(ふじわら としなり)と偶然、飲みに行くことになる。
「宮原先輩って、すごく綺麗で頼りになるのに、彼氏とかいないんですか?」
その何気ない一言が、依鈴の中の“女”を揺さぶった。
それまで気にも留めていなかった後輩の笑顔が、不意にまぶしく見えたのは──きっと酔いのせい。
けれど運命は、思いもよらぬ形で動き出す。
ふとした会話の流れで、彼女は自分の“秘密”をぽろりと漏らしてしまう。
「ぬいぐるみで……ひとりで、してるの」
それは決して笑い話ではなく、誰にも知られたくない“赤裸々な告白”。
当然、藤原くんがドン引きすると思っていた。
でも──彼は笑わなかった。
むしろ、目の奥に少しだけ切なさを滲ませて言ったのだ。
「そういうのって、別に悪いことじゃないですよ。むしろ、ちゃんと自分を慰めてあげてるってことじゃないですか」
その優しさは、依鈴の頑なな心をすっと溶かした。
誰かにこんなふうに、否定されずに受け止められたのは、いったい何年ぶりだろう。
それからというもの、藤原くんは少しずつ依鈴の中に入り込んでくる。
仕事帰りに軽く飲みに行ったり、休日にランチをしたり。
そして気づけば、彼の手がぬいぐるみを押しのけるように、彼女の体と心を優しく撫で始めていた。
──この人となら、“フジクマくん”を卒業できるかもしれない。
けれど、ぬいぐるみを抱く癖は、ただの趣味じゃない。
心を守るための“殻”であり、“逃げ場所”でもある。
藤原くんがいくら優しくしてくれても、いつか他の男と同じように引いてしまうんじゃないか。
そんな不安が、依鈴の背中をずっと掴んで離さない。
だけど藤原くんは、何度も、何度でも言ってくれる。
「俺は、宮原先輩のぜんぶが好きです」
「もし傷ついたとしても、俺が抱きしめるから」
その言葉が、依鈴の胸に沁みていく。
ぬいぐるみに寄りかかっていた彼女の心が、ゆっくりと“人の腕”に預けられていく瞬間。
それはきっと、はじめての「ほんとうの恋」だった。
🐻テーマ:
「性癖」「依存」「自己嫌悪」──それでも誰かと繋がりたいと願う人間の弱さと愛おしさ
そして、“ぬいぐるみ”という象徴を通して描かれる「過去の自分との決別と受容」
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