漫画「今世では、ひとりで生きようと思います。そのはずが」をネタバレ解説
魔術の強さが貴族としての価値を決める国。
その世界で、公爵令嬢マリーシャ・レインベルクは“落ちこぼれ”と呼ばれていた。
魔術の才に恵まれなかった彼女は、家族から冷遇され、妹のカノリアと比べられながら生きてきた。両親は優秀なカノリアばかりを可愛がり、マリーシャには期待すらしない。そんな中で、唯一優しく接してくれたのが、婚約者のハインリヒだった。
「君は君のままでいいんだ」
彼はそう言ってくれた。魔術が使えない自分でも、彼とともに生きていけるなら──そう信じていた。
しかし、それもただの幻想だった。
ある日、屋敷を訪れたハインリヒの声が聞こえた。
優しく、甘やかな声──けれど、それが囁かれていた相手は カノリア だった。
「愛しているよ、カノリア。マリーシャとの婚約なんて、最初からどうでもよかった」
瞬間、マリーシャの中で何かが音を立てて崩れた。
問い詰めようとしたが、ハインリヒは冷たく言い放つ。
「君とは、これで終わりだ」
そして 婚約破棄 を告げられたのだった。
それだけでは終わらなかった。
家族は、婚約破棄されたマリーシャに 新たな婚約者 を押し付けようとしたのだ。
「お前に選ぶ権利はない。カノリアこそが家の誇りなのだから」
その瞬間、マリーシャの頭の奥に 忘れ去られていた記憶 が蘇る。
── 前世の記憶 。
マリーシャはかつて 「黒聖女」と呼ばれた存在 だった。
圧倒的な魔力を持ち、数多の災厄から国を救った。だが、力を恐れた貴族たちの裏切りにより 処刑 された。
人を信じたがゆえに、利用され、そして殺された。
その記憶が、今世のマリーシャの 無意識のブレーキ となり、魔術の力を封じていたのだった。
「……私は、騙されていたの?」
過去の自分の記憶をすべて取り戻したとき、マリーシャの中で 何かが弾けた。
──もう、二度と誰にも利用されない。今度こそ、私は自由に生きる。
決意したマリーシャは、屋敷を出る準備を始める。
家族にも、婚約者にも、二度と縛られないために。
──だが、その矢先。
屋敷の門の前で 呪われた青年・セオドア と出会う。
彼は 致命的な呪い に蝕まれ、今にも命を落としそうな状態だった。
マリーシャは瞬時に判断する。
このまま見捨てるべきか、それとも──
「……助けるわ」
彼を救うには、自らの命を削る回復魔術 を使うしかない。
魔力を放出した瞬間、体に鋭い痛みが走る。
「っ……大丈夫?」
目の前の青年が、不安そうに自分を覗き込んでいた。
自分の命が危なかったというのに、それよりも 自分を気遣う男 。
「本当に……ありがとう。君に出会えてよかった」
その言葉に、マリーシャの胸がざわめいた。
彼女は人に優しくされることに、あまりにも慣れていなかった。
自分の居場所を求めていたのは、本当は自分の方だったのかもしれない。
マリーシャは立ち去ろうとする。しかし、セオドアは彼女の異変に気づく。
「何か事情があるんだろう?」
彼のまっすぐな眼差しに、マリーシャは心を開き始める。
婚約破棄されたこと、家から逃げようとしていること──そして、誰にも見つからないように消えたいことを。
話を聞いたセオドアは、ある提案をする。
「なら、一時的に俺と婚約しないか?」
偽りの婚約。
彼のもとに身を寄せれば、家族は強引に婚約を進めることもできなくなる。
「お前が落ち着くまでの間、俺が守る」
遠慮するマリーシャだったが、セオドアの 真剣な眼差し を見て決意する。
「……わかった。契約しましょう」
こうして2人は、互いに守り合う関係となった。
マリーシャは セオドアの体調を管理する役目 を担い、セオドアは マリーシャを守る盾 となる。
こうして、2人の 一時的な婚約生活 が始まった。
最初は契約だけの関係だった。
でも、日々を共に過ごすうちに、2人の間には 確かな絆 が生まれていく。
そしてマリーシャは、気づき始める。
「ひとりで生きる」と決めたはずの自分が、セオドアのそばにいることが 当たり前になっている ことに──。
それが 「偽り」から「本物」へと変わっていく物語の始まり だった。
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